
夢のうた~花のように風のように生きて~
第4章 運命の邂逅
育ちの良さを窺わせる丁寧な物言いで礼を述べると、娘は立ち上がろうとする。が、その瞬間、顔をしかめた。多分、下半身の傷が痛むのだろう。
「まだ無理だよ、医者は―」
徳松はそこで、はたと口をつぐんだ。何と言って良いものか思案した。身体の、殊に下半身の傷について、明らかに陵辱された跡があったということには触れない方が良いと判断する。あからさまに告げるわけにはゆかないので、言葉を慎重に選びながら続けた。
「身体の傷が癒えるまではまだひと月はかかると医者が言ってたから、それまでは安静にしてねえと」
その言葉に、娘がハッとした表情で頬を赤らめた。身の置き場もない様子で顔を伏せた。
「いや、その―」
話題が話題だけに、徳松もまた、真正面から娘の顔を見ることができず、狼狽えて視線をあちこちにさまよわせた。
「俺は徳松、大工をしてる。見てのとおりの貧乏長屋だけど、お前が居たいだけ、ここに居たら良い」
娘は弾かれたように顔を上げた。
その可愛らしい面に警戒するような表情が浮かぶ。小動物が獣から必死で身を守ろうとするかのように身構えている。
徳松はできるだけ優しそうな笑顔に見えることを祈りながら、笑顔をこしらえて言い聞かせた。
「さっきも言ったように、俺はお前に指一本触れやしねえ。ここに来る前は、さぞ怖い思いをしたんだろうが、俺は間違っても、そんな真似はしねえから、安心して、いつまでもいてくんな」
一方、お千香は眼の前の男の言葉を俄には信じられないでいた。
定市にあれだけの酷い仕打ちをされた後ゆえ、すぐに徳松という若い大工を信じられなかったのも無理はない。
お千香は小さく首を振った。
「でも、このままずっと居候させて頂くというわけにもいきません」
それでは、あまりにも厚かましい。見ず知らずの他人の家に、しかも若い男の家に上がり込んでそのまま住み着いてしまうなんて、お千香の常識の枠をはるかに越えている。
「それじゃア、こうしちゃあどうだい。お前には三度の飯の支度を頼むよ。その代わりに、お前は堂々とここにいられる。それで手を打とう」
「まだ無理だよ、医者は―」
徳松はそこで、はたと口をつぐんだ。何と言って良いものか思案した。身体の、殊に下半身の傷について、明らかに陵辱された跡があったということには触れない方が良いと判断する。あからさまに告げるわけにはゆかないので、言葉を慎重に選びながら続けた。
「身体の傷が癒えるまではまだひと月はかかると医者が言ってたから、それまでは安静にしてねえと」
その言葉に、娘がハッとした表情で頬を赤らめた。身の置き場もない様子で顔を伏せた。
「いや、その―」
話題が話題だけに、徳松もまた、真正面から娘の顔を見ることができず、狼狽えて視線をあちこちにさまよわせた。
「俺は徳松、大工をしてる。見てのとおりの貧乏長屋だけど、お前が居たいだけ、ここに居たら良い」
娘は弾かれたように顔を上げた。
その可愛らしい面に警戒するような表情が浮かぶ。小動物が獣から必死で身を守ろうとするかのように身構えている。
徳松はできるだけ優しそうな笑顔に見えることを祈りながら、笑顔をこしらえて言い聞かせた。
「さっきも言ったように、俺はお前に指一本触れやしねえ。ここに来る前は、さぞ怖い思いをしたんだろうが、俺は間違っても、そんな真似はしねえから、安心して、いつまでもいてくんな」
一方、お千香は眼の前の男の言葉を俄には信じられないでいた。
定市にあれだけの酷い仕打ちをされた後ゆえ、すぐに徳松という若い大工を信じられなかったのも無理はない。
お千香は小さく首を振った。
「でも、このままずっと居候させて頂くというわけにもいきません」
それでは、あまりにも厚かましい。見ず知らずの他人の家に、しかも若い男の家に上がり込んでそのまま住み着いてしまうなんて、お千香の常識の枠をはるかに越えている。
「それじゃア、こうしちゃあどうだい。お前には三度の飯の支度を頼むよ。その代わりに、お前は堂々とここにいられる。それで手を打とう」
