
夢のうた~花のように風のように生きて~
第4章 運命の邂逅
「この女は私の女房だ。亭主が女房をどう扱おうと、他人のお前に指図される筋合いはねえ」
定市が傲岸な態度で言う。
徳松は定市を憐れむような眼で見た。
「それほどまでに惚れてるなら、何でもっと大切にしてやらねえ? 女に惚れるのと、手前の欲望だけで女を手込めにするのとは訳が違うぜ」
「そんなきれい事がよくも言えるものだな。どうせ、お前だって、お千香を抱いたんだろう? この私がさんざん弄んで手込めにしてやった女を歓んで抱いたんだろう」
定市の言葉は容赦なくお千香の心を打ちのめした。
―さんざん弄んで手込めにしてやった女―。
蒼白になったお千香を、徳松が気遣わしげに見た。
「良い加減にしろよ。当人の前でよくもそんな科白が言えたものだな。あんたは本当に人間の屑だ」
徳松が断じると、定市が怒りに顔を朱に染めた。
「何だと? もう一度言ってみろ」
「ああ、何度でも言ってやるよ、あんたは人間の屑だ」
言い終わらない中に、徳松の拳が定市の頬に炸裂した。定市は無様によろめき、その場につっ転ぶ。
「とっとと帰りやがれ。もう二度とお千香ちゃんの前に現れるな」
うずくまったまま頬を押さえる定市に、徳松が怒鳴った。
定市がゆらりと立ち上がる。
紅く腫れた右頬を押さえ、定市が恨めしげにお千香を見た。
「このままで済むと思うなよ?」
捨て科白を残すと、ふらふらと覚束ない足取りで出ていった。
「大丈夫か、お千香ちゃん」
改めて徳松に問われ、お千香は小さく頷いた。
「手拭いを忘れちまったのに気づいて、途中で引き返してきたんだ。帰ってきて、かえって良かったよ」
お千香は声を発することもできなくて、ただ頷いた。もし徳松が帰ってこなくて、あのまま定市に連れ帰られていたらと考えただけで、怖ろしさに気が狂いそうだ。
―さんざん弄んで手込めにしてやった女。
お千香の耳に定市の声が不吉なまじない言葉のようにまとわりつき、離れない。
定市が傲岸な態度で言う。
徳松は定市を憐れむような眼で見た。
「それほどまでに惚れてるなら、何でもっと大切にしてやらねえ? 女に惚れるのと、手前の欲望だけで女を手込めにするのとは訳が違うぜ」
「そんなきれい事がよくも言えるものだな。どうせ、お前だって、お千香を抱いたんだろう? この私がさんざん弄んで手込めにしてやった女を歓んで抱いたんだろう」
定市の言葉は容赦なくお千香の心を打ちのめした。
―さんざん弄んで手込めにしてやった女―。
蒼白になったお千香を、徳松が気遣わしげに見た。
「良い加減にしろよ。当人の前でよくもそんな科白が言えたものだな。あんたは本当に人間の屑だ」
徳松が断じると、定市が怒りに顔を朱に染めた。
「何だと? もう一度言ってみろ」
「ああ、何度でも言ってやるよ、あんたは人間の屑だ」
言い終わらない中に、徳松の拳が定市の頬に炸裂した。定市は無様によろめき、その場につっ転ぶ。
「とっとと帰りやがれ。もう二度とお千香ちゃんの前に現れるな」
うずくまったまま頬を押さえる定市に、徳松が怒鳴った。
定市がゆらりと立ち上がる。
紅く腫れた右頬を押さえ、定市が恨めしげにお千香を見た。
「このままで済むと思うなよ?」
捨て科白を残すと、ふらふらと覚束ない足取りで出ていった。
「大丈夫か、お千香ちゃん」
改めて徳松に問われ、お千香は小さく頷いた。
「手拭いを忘れちまったのに気づいて、途中で引き返してきたんだ。帰ってきて、かえって良かったよ」
お千香は声を発することもできなくて、ただ頷いた。もし徳松が帰ってこなくて、あのまま定市に連れ帰られていたらと考えただけで、怖ろしさに気が狂いそうだ。
―さんざん弄んで手込めにしてやった女。
お千香の耳に定市の声が不吉なまじない言葉のようにまとわりつき、離れない。
