夢のうた~花のように風のように生きて~
第4章 運命の邂逅
「そのことは良い。それも俺は知らねえわけじゃないんだ。だが、お前の過去に何があっても気にならないように、そんなことも俺はどうでも良い。先刻も言ったろ、今の、そのままのお千香ちゃんが良いんだって」
「―徳松さん、私、嬉しい」
お千香が涙を零すと、徳松は笑った。
「大好きだよ」
徳松の手がそっとお千香のすべらかな頬に触れる。そのまま顔を持ち上げられたお千香の唇に、静かに徳松の唇が降りてきた。
まるでかすめるような軽い口づけに、お千香は徳松の心がこもっているように思えた。
「今年中に祝言を挙げよう。棟梁に仲人になって貰えば良い。なに、人別のことは、おいおい片をつけてゆけば良いさ」
徳松の親方留造の女房は美濃屋には親戚筋になる大店の娘だという。徳松は、不安げなお千香に意外な事実を語った後、こともなげに言った。
「おかみさんを通じてあの男に話をつけて貰って離縁状を書かせるって手もあるからな」
現実として話がそう上手くゆくとは思えなかった。いくら奉公人上がりとはいえ、今は定市もれきとした美濃屋の主だ。その誇りもあるだろう。親類筋のお店からの申し越しとはいえ、易々と去り状を書くだろうか。が、少なくとも徳松がお千香の不安をいささかなりとも軽くしようとしてくれているのが判った。だから、お千香は微笑んで頷いた。
そのときの徳松との口づけは、お千香にとって永遠に忘れられぬものとなった―。
「―徳松さん、私、嬉しい」
お千香が涙を零すと、徳松は笑った。
「大好きだよ」
徳松の手がそっとお千香のすべらかな頬に触れる。そのまま顔を持ち上げられたお千香の唇に、静かに徳松の唇が降りてきた。
まるでかすめるような軽い口づけに、お千香は徳松の心がこもっているように思えた。
「今年中に祝言を挙げよう。棟梁に仲人になって貰えば良い。なに、人別のことは、おいおい片をつけてゆけば良いさ」
徳松の親方留造の女房は美濃屋には親戚筋になる大店の娘だという。徳松は、不安げなお千香に意外な事実を語った後、こともなげに言った。
「おかみさんを通じてあの男に話をつけて貰って離縁状を書かせるって手もあるからな」
現実として話がそう上手くゆくとは思えなかった。いくら奉公人上がりとはいえ、今は定市もれきとした美濃屋の主だ。その誇りもあるだろう。親類筋のお店からの申し越しとはいえ、易々と去り状を書くだろうか。が、少なくとも徳松がお千香の不安をいささかなりとも軽くしようとしてくれているのが判った。だから、お千香は微笑んで頷いた。
そのときの徳松との口づけは、お千香にとって永遠に忘れられぬものとなった―。