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夢のうた~花のように風のように生きて~

第5章 花塵(かじん)

 
 おみつ、この文をお前が読んでいる頃には、私はもうこの世にはいないと思います。
 私には、もうこの広い世の中でどこにも行き場がありません。
 生きている限り、定市に追いかけられ捕まえられるのです。これからも、私はあの人にずっとつきまとわれることでしょう。でも、もういや。あんな人には触られたくもない。
 私がいなくなれば、あの人もあの世までは追いかけてこられないでしょう。心残りなのは、お腹の子のことです。折角生命を授かり、元気にこの世に生まれてこようとしているのに、私は酷い母親になろうとしています。
 でも、子どもには可哀想なことをすると思うけれど、どうしようもないのです。
 さんざん考えた末、私が選ぶ道はこれしかないと思いました。どうか、身体に気をつけて、長生きして下さい。可愛がって育ててくれたのに、先立つことを許してね。

  千香 

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