
夢のうた~花のように風のように生きて~
第5章 花塵(かじん)
お千香らしい、流れるような手跡で遺書は書かれていた。
この手紙は、お千香の死後二ヶ月を経て、漸く文箱の中から発見された。というのも、昨日になって、定市がやっとお千香の身の回りの遺品を片付けるようにと言ったからだ。
定市はどうやらお千香の部屋を片付ける気にはなれず、生前使っていた居間と続きの寝室は、お千香が生きていた頃そのままの状態に保つように命じ、おみつはそのとおりにしてきた。
だが、漸く定市も少しは心の踏ん切りがついたのだろう。
二ヶ月前のあの日、お千香が定市の寝間に連れてゆかれていた間、おみつは自室で横になっていた。定市を止めようとして蹴り上げられた際に、頭をしたたか打ち、昏倒してしまったのだ。
もし、その時、自分が生命に代えても定市の暴挙を止めることができていればと、おみつは今更ながらに口惜しい。意識を取り戻したのは、急を知らせに若い女中が呼びにきたときのことで、その時既にお千香はこの部屋で生命を絶った後であった。
この部屋は、今も二ヶ月前の、お千香が生きていた頃と少しも変わっていない。
おみつでさえ、こうしていると、ふいにどこかから、お千香の声が聞こえてくるような気がしてならない。
おみつは今更ながらに思う。
定市は、お千香に心底から惚れていたのだ。
お千香の秘密を知ってもなお、定市の心が変わることはなかった。愛するがあまりに相手を縛り、欲望に溺れ、結果として、それがお千香の心身を傷つけることになった。
恐らく、定市がお千香に示した度を超えた愛情は、定市なりの愛し方であったのだろう。
世の中にはよく相性の悪い人同士が必ずいるものだというけれど、定市とお千香は、いかにしても相容れぬ宿命を持った二人だったのかもしれない。
お千香は生まれながらに哀しい運命を背負い、更にその上、苛酷な人生を生きねばなららない哀れな娘であった。
おみつは、お千香が最後に書いた文に頬ずりをしてから、静かに二つに破った。
お千香は手紙の終わりに書いていたのだ。
この遺書を読んだなら、必ず人眼につかぬ方法で処分して欲しいと。
おみつは手紙を更に細かく破ってゆく。
この手紙は、お千香の死後二ヶ月を経て、漸く文箱の中から発見された。というのも、昨日になって、定市がやっとお千香の身の回りの遺品を片付けるようにと言ったからだ。
定市はどうやらお千香の部屋を片付ける気にはなれず、生前使っていた居間と続きの寝室は、お千香が生きていた頃そのままの状態に保つように命じ、おみつはそのとおりにしてきた。
だが、漸く定市も少しは心の踏ん切りがついたのだろう。
二ヶ月前のあの日、お千香が定市の寝間に連れてゆかれていた間、おみつは自室で横になっていた。定市を止めようとして蹴り上げられた際に、頭をしたたか打ち、昏倒してしまったのだ。
もし、その時、自分が生命に代えても定市の暴挙を止めることができていればと、おみつは今更ながらに口惜しい。意識を取り戻したのは、急を知らせに若い女中が呼びにきたときのことで、その時既にお千香はこの部屋で生命を絶った後であった。
この部屋は、今も二ヶ月前の、お千香が生きていた頃と少しも変わっていない。
おみつでさえ、こうしていると、ふいにどこかから、お千香の声が聞こえてくるような気がしてならない。
おみつは今更ながらに思う。
定市は、お千香に心底から惚れていたのだ。
お千香の秘密を知ってもなお、定市の心が変わることはなかった。愛するがあまりに相手を縛り、欲望に溺れ、結果として、それがお千香の心身を傷つけることになった。
恐らく、定市がお千香に示した度を超えた愛情は、定市なりの愛し方であったのだろう。
世の中にはよく相性の悪い人同士が必ずいるものだというけれど、定市とお千香は、いかにしても相容れぬ宿命を持った二人だったのかもしれない。
お千香は生まれながらに哀しい運命を背負い、更にその上、苛酷な人生を生きねばなららない哀れな娘であった。
おみつは、お千香が最後に書いた文に頬ずりをしてから、静かに二つに破った。
お千香は手紙の終わりに書いていたのだ。
この遺書を読んだなら、必ず人眼につかぬ方法で処分して欲しいと。
おみつは手紙を更に細かく破ってゆく。
