テキストサイズ

短編集

第14章 『越冬ツバメ』

老婆とは失礼だったが、後で自己紹介してくれた名前はやよいさん。

私達の出会いはこんな感じだ。

なんだかわからないままに店に引き込まれた私は、やよいさんに言われてシャワーを借りた。

服も着替えた。

着ていた服はやよいさんが洗濯をしてくれた。

いや、クリーニングと呼ぶべきなのかも。

乾くまで、やよいさんの手伝いをした。

やよい「ちがうちがう。スチームはこうして当てるの。シワを伸ばしながらね。見た目どおり、不器用ね」

私「…ん、まぁ」

そこまではっきり言われたら特に言い返す気も起こらない。


やよいさんの手はシワシワで節くれている。

その手で、吊られたブレザーに手早くスチームが掛かって、しゃんと形が整って、シワが伸びていく。

やよい「すっぴんしゃん、と。」

私「…何、それ?」

やよい「え?最後に裾をぴっとしてやるのがコツなのよ」

私「いや、そうじゃなくって…すっぴんしゃーって」

やよい「え…すっぴんしゃん、のこと?」

私は頷く。

やよい「え、特に意味はないのよ。口癖、かな」

照れているのか、目をそらして話すやよいさんは、ちょっと可愛い。

私「すっぴんしゃーっか…」

やよい「何よ。すっぴんしゃん、よ」


怒ったふりをしたやよいさんと目が合って、思わず笑ってしまった。

やよいさんも笑いだす。

私「すっぴんしゃん!」

やよい「もういいから!すっぴんしゃん!」

二人でふざけて笑った。



そう言えば、私は…いつから笑っていなかっただろう?

ストーリーメニュー

TOPTOPへ