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短編集

第14章 『越冬ツバメ』

その後、縁側に座ってやよいさんに少し身の上話をした。

小さな庭には赤と白のつつじが咲いていた。

話に一息ついて、やよいさんの淹れたお茶を口につける。

茶碗に澄んだ緑と、手に温かさが伝わる。

私「おいしい」

やよい「そーかい?湿気た茶だよ?」

満更でもない様子のやよいさんが笑う。

やよい「ちぃとは、小綺麗になったね」

私「…私のこと?」

やよいさんは落ち着いて私を見ている。

やよい「まあ、帰るところがあるなら、帰った方がいいよ。早くね」

私「…」

やよい「ん?」

私「…ここ、おいてもらえませんか?」

やよい「何言い出すのさ?」

私「少しの間でもいいから」

やよい「こんなところにいても何も解決しないよ?」

私「迷惑なのはわかってます。自分が逃げていることも。でも、少しだけ…」

やよい「うん~」

私「お願いします」

やよい「うちは働かざる者、食うべからず。いるからには働いてもらうよ?」

私「もちろん!喜んで」

やよい「本気かい?…あ~あ、大丈夫かねぇ、あんた、また安請け合いしちゃったよ、こんでいいのかね」

やよいさんが座敷に振り返って言う。

座敷の奥には仏壇があり、モノクロの遺影が立てられていた。

にっこり笑った男性が写っていた。

やよい「まあ、あの人もいいってさ。よかったね、すっぴんしゃん」

私「ありがとう…すっぴんしゃん」

庭から、風が吹いて、わずかに甘い花の匂いがした気がした。


―こうして私はさくらクリーニングを住み込みで手伝うようになった。

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