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短編集

第14章 『越冬ツバメ』

晴れた日。

私が、さくらクリーニングでの生活になれた頃、やよいさんが私に言った。

お客さんもなく、店のカウンターから、軒下の巣を眺めていたときのことだ。

やよい「大きくなったね」

巣では、巣からはみ出しそうなくらい元気に育った雛鳥達が、顔を出してこちらを見ていた。

羽も生え揃って、親鳥と同じ白黒に赤のラインが入っている。

やよい「そろそろ巣立ちのときだねぇ」

やよいさんが感慨深そうに呟く。

私はやよいさんの顔を見る。

やよいさんは巣を見ている。

その横顔は、少しだけ寂しそうに見えた。

親鳥が、すぃーと戻ってくると、途端、雛鳥達はけたたましく鳴き出す。

やよい「おや、まあ。まだ甘えたりないのかい」

とやよいさんは笑った。

親鳥は、自分と同じくらいに大きくなった子ども達に、エサを与えると、再び空へ飛び立った。

私「ツバメって…」

私は言いかけて、やめた。

やよい「ん?なんだい?」

やよいさんは不思議そうに聞き返す。

私「ん…なんでもないの」



―ツバメって、いったいどこで死ぬのかな。


なんて、ふと思い付いたけれど、なんだか甘え質問のようで、やよいさんに聞くのが恥ずかしくなったからだ。


やよい「ふ~ん」

やよいさんは、気にせず巣に目を戻した。


やよい「あんたたち、いつまでも巣にへばりついとらんと。早く飛ぶ練習でもしな。いつまでも、あると思うな、親と金!」

と言い放つと、やよいさんは、かかか、と笑いながら店の奥に入っていった。

雛鳥達は、きょとん、としていた。

そして、私と目が合うと、雛たちは首を傾げたのだった。


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