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短編集

第7章 『飛行願望』

「気がついたか?」

…?

「ここはお前のようにフラフラと飛行する癖のある馬鹿者を収容する施設だ。わかるか?」

…。

恰幅のよい中年の男が話しかけてきている。

だが頭がぼーっとしてよくわからない。

椅子に座らされているようだ。

俺は…。

…。

…そうだ、網にかかったあと電気ショックで気絶したんだ。


「お前さんの両親は飛ぶ薬の開発者らしいじゃないか?確かに飛ぶ薬は、言葉どおりに飛躍的に人類の歴史を変えた。素晴らしい薬だ。しかし乱用すれば死に至る。」


…俺のことを知ってる?いや、調べたのか…。


「ご両親も優秀な方達だったそうだが、落下事故で亡くなったそうだな。残念なことだ」


俺はうつ向いて床を見つめる。
ワックスのかかった滑らかな病院のような白い床だ。
コーティングされた光沢が神経に障る。


「お前さんも無闇に飛び回って死んだんでは、ご両親も浮かばれないぞ。」


優しいようで、正しいようで、何かを覆ったような嘘臭い口振りが、床の光沢にダブる。


「いい加減、大人になれ」
…。

…。

…大人になれだって?

おい、大人になるってどういうことだよ?

頭が痛い。

ヘドが出そうだ。

気持ち悪い。

目の前がぐるぐるする。

何も、わからない。

わかりたく、ない。

…。


「おい、大丈夫か?…だめだ、禁断症状がでやがった。おーい、誰か!こいつを房にぶちこんどけ!」


…少女の咲かせた赤い花がぐるぐる回っていた。

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