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短編集

第10章 『祖母の夏』

俯いて歩いていたら、もうどうしようもなくなって、彼女は道にしゃがみこんでしまった。

胸がきゅうきゅうする。

どうしたらいいんだろう?
涙が出てくる。

ここが道端じゃなかったなら、大声をあげて泣いてわめいていたかもしれない。
本当の家だったらお母さんが「どうしたの?」って心配してくれたかもしれない。
「元気出せよ」ってお父さんが励ましてくれたかもしれない。

彼女は孤独に襲われていた。

「…お母さん、お父さん」
そんなつもりはなかったのに、口に出して呼んでみると涙がポロポロ止まらなくなった。

でも、誰も助けてくれる人はいない。

もう、一歩も歩けなかった。

お父さんもお母さんも町を離れられない訳があったのだ。

今では空襲でどうなったかわからない。

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