
背徳の光景〜immorality〜
第2章 依頼【晃二視点】
急に不吉なことを口にする匡に、俺は口を噤んでしまう。
どうやって返せというのか。
またどうして“死”なんて容易く口に出来るんだ?
段々と俺の中に芽生える怒気。
「何を言ってるんだ!」
ラーメン屋の中だというのも忘れ、感情が高ぶっている俺はつい声を荒げてしまう。
途端に周囲が静けさに包まれる。
俺の怒声に全員が反応し、一斉に固まってしまったようだ。
俺もその雰囲気に、しまったと立場がなく、顔を顰める。
だがそれも一瞬のことで、人々は平常を取り戻す。
俺は今も羞恥心で肩身が狭い思いを抱いたままだったが、反対に匡は注文したビールを軽く口に通すと、ただ苦笑で俺を見ているだけだった。
少しずつ冷静になってきた俺は、ちらりと匡を横目で見やる。
ただどちらとも声を掛けることはなかった。お互いに居場所を失った者同士、沈黙だけが流れる。
何時までもこの状態も辛く、ますます息苦しさも感じ、「出ようか……」と俺から声を掛けた。それに匡も同意すると、すぐさま支払いを済ませ、夜の帳をひた歩く。
暫く歩きながらも沈黙は続いている。
まだ肌寒い夜の道を歩きながらも、やっとのことで俺は前を向いたまま、匡に俺の気持ちを伝えていく。
「……何かあったのか?」
匡が“命”を簡単に口にする男だとは思えなかったからだ。
だとすれば匡の身に何かあったのか。
例えば、死の衝動に駆られる程の何かが……。
だが匡の口から出たのは否定の言葉だった。
「いや……」
それは小さく、消え入りそうな声音だった。
まるで不安を与える、何かを予感させるような、小さな、小さな声。
はっきりと否定しているのに、更に拡がる不吉な予感。
そしてふと横に並ぶ匡を見入れば、小さな微笑。
小さな声音と、小さな微笑。
そんな匡の姿が、俺の脳裏に残像として何時までも残ることになった。
どうやって返せというのか。
またどうして“死”なんて容易く口に出来るんだ?
段々と俺の中に芽生える怒気。
「何を言ってるんだ!」
ラーメン屋の中だというのも忘れ、感情が高ぶっている俺はつい声を荒げてしまう。
途端に周囲が静けさに包まれる。
俺の怒声に全員が反応し、一斉に固まってしまったようだ。
俺もその雰囲気に、しまったと立場がなく、顔を顰める。
だがそれも一瞬のことで、人々は平常を取り戻す。
俺は今も羞恥心で肩身が狭い思いを抱いたままだったが、反対に匡は注文したビールを軽く口に通すと、ただ苦笑で俺を見ているだけだった。
少しずつ冷静になってきた俺は、ちらりと匡を横目で見やる。
ただどちらとも声を掛けることはなかった。お互いに居場所を失った者同士、沈黙だけが流れる。
何時までもこの状態も辛く、ますます息苦しさも感じ、「出ようか……」と俺から声を掛けた。それに匡も同意すると、すぐさま支払いを済ませ、夜の帳をひた歩く。
暫く歩きながらも沈黙は続いている。
まだ肌寒い夜の道を歩きながらも、やっとのことで俺は前を向いたまま、匡に俺の気持ちを伝えていく。
「……何かあったのか?」
匡が“命”を簡単に口にする男だとは思えなかったからだ。
だとすれば匡の身に何かあったのか。
例えば、死の衝動に駆られる程の何かが……。
だが匡の口から出たのは否定の言葉だった。
「いや……」
それは小さく、消え入りそうな声音だった。
まるで不安を与える、何かを予感させるような、小さな、小さな声。
はっきりと否定しているのに、更に拡がる不吉な予感。
そしてふと横に並ぶ匡を見入れば、小さな微笑。
小さな声音と、小さな微笑。
そんな匡の姿が、俺の脳裏に残像として何時までも残ることになった。
