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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 ふと往来の向こう側から賑やかな気配がして、小文は顔を上げた。普段から両脇には店屋が建ち並ぶ、人通りも多い大路である。が、あの雰囲気はただ事ではなかった。何とはなしに緊張さえ孕んだ物々しさが漂っている。
 ほどなく一人の武士と見える男が駆けてきた。
「まもなく関白殿下がここをお通りになられる。くれぐれも粗相のないように致せ」
 大路を行き交っていた人々は皆、一様に顔を見合わせている。各々の店や家から物見高い野次馬が何事かと表へ出てきた。
「さ、関白殿下のお通りじゃ。皆、早うに脇へよけるのじゃ」
 どうやら、それが先触れであったらしく、すぐに大勢の行列がやってくるのが向こうに見えた。

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