テキストサイズ

紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 ほどなく一人の客が「ゆめや」に入り、半刻(はんとき)余りで出てきた。商家の内儀風の中年増の女だ。女は小脇に包みを後生大切そうに抱え、どことはなしに嬉しげな表情で帰ってゆく。
 表に出てきた小文は丁重に頭を下げて客を送り出した。
「ありがとうございました。日々の暮らしに倦んだら、また、おいでなさいませ。うちは夢を売る店、『ゆめや』でございます。お客様にお望みの着物を着て頂いて、いっときなりとも良き夢を見て頂くことを信条としております」
 去ってゆく客を小文がいつもの決まり文句と共に見送る。客の女の後ろ姿が見えなくなるのを見届け、小文はホウと息を吐いて空を見上げた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ