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紅蓮の月~ゆめや~

第14章 最終話 【薄花桜】 二

 時はめぐり、時代は流れ続ける。
 今は徳川の世になり、戦(いくさ)はなくなった。人々があれほど請い願った泰平の世が訪れたのだ。都の人々ももう戦火に怯えることなく、枕を高くして眠ることができるようになった。
 洛外の小さな町外れで今日も客を呼び込む声が響く。狭い道沿いの小さな古着屋の前に小文の姿があった。二十年の歳月は、小文の美貌に臈長けた、そこはかとなき愁いを与えていた。若い頃に好んで着ていた紫地の着物
を着ているけれど、今もよく似合っている。紫の地色が彼女の臈長けた艶(あで)やかさを余計に引き立てていた。
 店の表には「ゆめや」と墨の跡も鮮やかに書かれた看板がかかっている。小文の手跡(て)になるものだが、なかなかの達筆である。

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