murder─殺戮編─
第1章 プロローグ
カランカラン。
古びた西洋の、美しい装飾が施された扉がゆっくりと開く。
来訪者を報せる乾いたベルの音。
中は薄暗く埃っぽい。
アンティーク物の家具が乱雑に置かれ、一見すれば廃墟の様にも見える。
一人の長身の男が扉を閉め、革靴のまま床板を踏み歩く。
コツ、コツ、コツ。
黒いスーツに赤い蝶ネクタイ。
白手袋を嵌めた両手に、顔の上半分を隠す綺麗な仮面。
風体を例えるならば、仮面舞踏会に赴く貴族の様なものだ。
男は寡黙を徹し、埃まみれの床を進んで更に奥深い部屋へと向かう。
金獅子の頭飾りが中央に植えられた一際豪華な扉の前に着くと、ゆるり、ノブに手を掛け押しやる。
薄暗さは変わらない広々とした一室。
砂嵐を映すテレビの明かりが、不気味に揺れてノイズを流していた。
そのテレビの前、横長の大きなソファーに座っている一つの影がある。
長い足を割れたテーブルに乗せて組み、同じく腕を組んだ男。
姿形は入って来た者と同じ。
黒いスーツに赤い蝶ネクタイ、そして顔上部を隠す美しい仮面。