murder─殺戮編─
第1章 プロローグ
座っている男の手には、一本の純白の矢が握られていた。
それをクルクルと弄ぶ。
「しけているな。パーティーは延期か?」
ドアを閉めた男がそう尋ねると、ピタリ矢を回す指が静止する。
「いいや」
含み笑いを乗せた返事と共に、長身痩躯の体が立ち上がった。
そして気怠げな動作で正面に向かい、持っていた一本の矢を投げる。
テレビの頭上。
壁に貼られている円形の紙の真ん中に、それは寸分の狂いも無く突き刺さり上下に揺らぐ。
「……たった今、始まった」
曝されている口許が緩やかに弧を描いた。
まるでダーツの様なその紙に書かれているのは、人の名前。
それも1人や2人では無い。
ざっと見ても20人程の名前が性別問わず書かれている。
「さぁ、パーティー会場に行くか」
「まだ此方は集まっていないが?」
「構やしねぇよ。後で来るだろ」
そう言って矢を投げた男はさっさと部屋の奥へ移動した。
一枚の大きな全身鏡の前で、狡猾さを隠しもしない舌嘗めずりを見せる。
「……ククッ、獲物がワンサカ居るぜ。楽しみだなァ」
うっとりとした声に、背後の男は肩を竦ませたが何も言わずその後に続いた。
鏡の中。
犇めく人の、怯えきった姿が窺える。
内部へと。