とある隠れ変態の物語
第7章 彼は万能イケメン
さすがに無駄な抵抗はしなくなった二人がお互いをつつき合う。
お前がしゃべれ
嫌だ
しゃべれよ
嫌だ
うん、無駄な抵抗はしなくなったとか嘘ですはい。
「どっちがしゃべるとか今はどうでもいいでしょ。さっさとしなさい」
「…………っ」
初めて会った時のきらびやかなあの王子様のような微笑みは何処へやら。
二人の前にいるのは、どちらかというと悪魔と契約した人間ならざるもの。いや、むしろ悪魔本体か。
「ウン、ワカッタ、ハナスカラ……ソノカオ、ヤメテクレマセンカ。シ、シンゾウニワルイデス」
かたことしゃべりの侑斗さんでようやく気付いた。自分がどんな末恐ろしい顔をしてるか。
食器棚のガラス戸に映るオレはまるでこの世の終わりを告げる番人のような顔をしてた。確かにこれは怖い。
「……こほん。えっと、どうやってウチに入ったんたですか?まず下でパスワードを入れなくちゃいけません。それはまだしも指紋認証まであるんですよ」
「これ」
やはり表情を変えずに侑里くんが目の前に差し出したのは。
「セロテープ?」
「ここに尚にぃの指紋が付いてる」
「ちなみにパスワードは前上がり込んだ時に尚輝が打ってたの、覚えてたんだと。玄関の鍵は鍵穴見てインプットしたんだろ。正解か?侑里」
「うん、そう」
…………言葉も出ないとはこのことだ。
セロテープに付いたオレの指紋を使って、覚えてたパスワードを入力。あげくに鍵穴見てインプットしたものを作って上がり込むとは。
人間離れしすぎでしょうがっ!!!!!!!
なんなの?!
枯れ果てて砂漠化した喉から声を必死に絞り出す。
「侑里くん、君、もうそれ人間の出来る活動範囲こえてるヨ……」
ようやく出た言葉はそんなマヌケなものだったけどね。