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帰り道の映画館

第1章 1


運良く電車で座れた私はうたた寝する訳でもなく片方のイヤホンで音楽を聴いていた。ふと気がつくと前に私好みの男の子が立っていた。なにやらソワソワした様子で、駅が終点に近づくにつれ顔が青冷めていく。
彼が私好みの顔であるのも理由の一つだが何故か私は彼の事が気になった。耳からイヤホンを抜いて、大して何も入ってないだろう鞄を肩に掛けると、席を立とうとする素振りをしてみる。
私が立ちたそうにしているのに気づいたのか、
彼はさっと横にずれた。
「あの、」
と、とっさに声をかけてしまったというのを装ってに彼に話しかける。
ビックリした様に私を見ると「・・・はい」と答えてくれた。
見た目からは想像もつかないようなか細い声だった。微かに震える手で口元を押さえている。
その仕草で私は決心がついた。
「大丈夫ですか?席、どうぞ座って下さい。」
すぐに席を立つと軽く押すように彼を座らせる。
「ありがと」
多分、年は同じくらいだろう。背は比較的に高い方だと思う。伏し目がちな表情が似合う顔だった。
意外になんの抵抗も無く座ってくれたので安心したが、手はまだ微かに震えている。
「うっ、」
突然彼は気持ち悪そうに下を向いた。吐くのか!と思った瞬間に私の予想通り彼は吐いた。
とっさに添えてしまった私の手に。
添えた方の手に生暖かい物が私の手に落ちる。

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