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帰り道の映画館

第1章 1

やばいな、とは思っていたのだが、いつもの癖で手を添えてしまった。「わぁっ」
と言う声と共に彼の顔が赤く染まっていく。
「大丈夫だよ」
看護婦のような落ち着いた態度で添えて無い方の右の手でどうにかハンカチを取り出すとまず自分の手の上の物をふき取った。
看護婦がたまたま席を譲った相手のゲロを手でキャッチした時の態度など知らないが。
その後は彼にハンカチを無理矢理もたすと鞄の中からウエットティッシュを探す。
一枚取って嘔吐物まみれの口を拭うようにウエットティッシュを手渡した。ありがとう・・・、と小さく彼はつぶやく。

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