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鳴り響く踏み切りの向こうの世界

第3章 検証してみる

『ああ。犬ばあさん。いつも乳母車に犬を連れて歩いている。あの婆さんが目撃者だ。あの婆さんは大体決まって同じ時刻にこの場所にいる。だから‥』

『なるほど‥恐らくその婆さんの隣だか前だかに女はいた。要確認だな。しかし‥右側通行までとは言わないが‥駅は左側‥つまり急いでいるならその間にでも左側に行く。そして左側には地下通路がある。つまり彼女は初めから死ぬ気でこの踏み切りに来た。踏み切りの向こうに行く意思はない』

『しかし‥』

『死にづ、ら、い、か‥』

うーん。藤城は腕を組み考える。元々小さい事にはかなりこだわる男だ。基本的には嫌な奴だが面白い男だ。だからこそまだ付き合いがある。

踏み切りが鳴る。遮断機が降りてくる。下り列車。しかし‥駅のホームの電工掲示板には準急の文字。つまりは山谷駅に停車する。

『長田‥飛び込めよ』

『意味はないぜ。準急だ』

『彼女はわざわざ急行を選んで飛び込んだのか?たまたまだろう。準急で果たして‥』

『分かった‥』

俺はタイミングを取る。横の不動産屋はかなり邪魔で見えない。乗り越えたのか‥屈んだのか‥とりあえず乗り越えてみよう。

『長田‥死ぬなよ』

一瞬だけ藤城の言葉にヒヤリとした。辺りを見回す。人気はあまりない。そして暗い。ふざけて遮断機に股がりこいつに押されたら確実に死ぬだろう。最も車が何台か待っている。目撃者はいる。監視カメラもあるだろう。

『どうした?』

『‥いや。何でもない』

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