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鳴り響く踏み切りの向こうの世界

第4章 犬婆さんの正体

『事故…』

『だからある意味だよ。さっきの話に例えると事故死になる。止めようとしただけなのだからね。もっともマトモに考えたら停まるだけでは済まない。ちょっとした心の病の発想だね』

藤城は宙を見上げる。

『じゃあ…』

『踏み切りに飛び込んだのは列車を停めようとした。しかし…失敗。で、死ぬ。だから自殺じゃないわけだ。少なくても彼女の頭の認識は事故死なわけだ』

宙を見上げた藤城の視線はカウンターへと移る。女マスターはメモ用紙を探しているのだろう。

『しかし…』

俺は思わず言葉を落とした。藤城は無言で煙草に火を点けた。まるでスイッチを押したかのように煙草の先の炎か光る。そして疑問を吐き出した。

『そう。しかしさ…踏み切りなんだよな。何故列車を止めないといけないのか?例えば重大な犯罪に巻き込まれて…そう命より大切な存在…子供が誘拐されたとか…』

『誘拐?』

『まぁ…あり得ない話じゃないだろう?子供が誘拐された…身代金の受け渡しの時間に間に合わない。パニックになり地下通路の存在も気付かない。だから踏み切りを潜る。 で…グシャ!となるわけだ。もっともこの場合は少し停めるとは意味が変わってくるんだが…さらに言えばこの誘拐はある意味フェイクで本当の目的は彼女を殺す事だったとさ…』

踏み切りだけに話が早くも脱線した。

『何故わざわざそんな遠回りを…』

俺は脱線に付き合った。レールを外れる。ロックじゃん。

『誘拐って最近あまり聞かないよな?別になくなった訳じゃないぜ。頼りない警察に通報しないだけさ。マスコミに報道され誘拐された子なんてレッテルを一生愛する子供に背負わせるならいくらかの高い授業料を払った方がマシさ。ならば…まぁ…この話は置いといて…』

藤城は煙草を消した。ホームレスが喜びそうな長いシケモク。こいつの癖。

『さて次は殺人だ…』

『殺人…』

『時間を追いかけるのが事故死なら逆に…そう、例えば…誰かに追われていたとか…』

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