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鳴り響く踏み切りの向こうの世界

第4章 犬婆さんの正体

『例えば…秘密結社に追われていた。彼女がそのその一員だったか、たまたま何かを目撃したのかは分からない。彼女はふと気付く訳だ…回りは敵だらけ』

『秘密結社?』

俺は笑…えない。どうにもこの男が真面目な顔して話すと現実味が帯びてくるから不思議だ。

『あの時間に誰がいたのかは分からない。地下通路の前、鳴り響く踏み切りの向こう…全ての逃げ道が塞がれた。もはや踏み切りに潜るしかない訳だ。つまり…あの時間に踏み切りの周辺にいた連中全員が共犯なわけ。まるで魚の追い込み漁のようにね。まっ…非現実的だが…警察だってたかだか踏み切り事故に目撃者以外にろくな調書は取らないだろう。しかも白昼。だれも殺されたなんては思わない。暇人以外にね』

『……………あっ』

気がつくと女マスターが不審そうに見下ろしていた。

『あっ、クリームソーダね。あと…メモ帳とボールペン』

メロンソーダが溢れんばかりに見事に盛られたバニラアイスに喫茶店ならではのこだわりの真っ赤なさくらんぼ。改めて眺めてみると、白に赤に緑と見事なコントラストだ。まるでイタリアの国旗。どうでもいいが…(本当に)イタリアが発祥の地なのだろうか?(違う)女マスターは慎重にテーブルに置く。

『ありがとう。このクリームソーダ本当に美味しそうだなぁ。ところでこの喫茶店は長いんですか?』

藤城は聞く。

『もう‥かれこれ二十年かねぇ』

女マスターは伝票を置こうとすると

『二十年か…長いなぁ。だったら知っていますか?あの踏み切りは何故通りゃんせなんて呼ばれているかを』

『‥あの踏み切り?』

『そう。最近事故があった駅前の例の踏み切りです』

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