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鳴り響く踏み切りの向こうの世界

第1章 一束の人生

階段を慌てて降りる。俺んちは四階。エレベーターはない。いってみればただの野次馬さ。

この田舎の踏み切りで事件いや事故は珍しい。
近くに小学校がある。保護者だろうか。下校ルートの変更を検討している。

(見せりゃいいんだ。命の尊さなんて言葉じゃ伝わりゃしないのに)

俺は勝手な事を思った。そんな俺はミュージシャン。かなりの矛盾。勿論アマチュアだけど。いや…だからアマチュアなのかもしれないな。

間近で列車を見る。急行の下り列車。駅が近いのが幸いしたのか…客の殆んどが先頭車両から駅に降りていた。

『何かあったんですか?』

俺は近くにいた親父に聞いた。

『兄ちゃん…なんでも若い女が飛び込んだらしい。勿体ないよな』

若い女の死。甘くて切ない香りがした。勿論勝手な妄想だ。髪の長い美女に血に染まった白いワンピース。

美人薄命。

救急車からブルーシートが外された。救急車のサイレンは慌ただしく鳴り走り出す。どう考えても生きてはいないだろう。救急車はグチャグチャになった死体まで運ぶのか…。俺は感心した。そして同情した。


もちろん…緊急隊員にだ。

いなくなった者に同情しても仕方ない。

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