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鳴り響く踏み切りの向こうの世界

第1章 一束の人生

翌日の夜勤明け。俺は休憩室にある新聞の地元欄を読んでいた。

『太陽鉄道山谷駅付近で人身事故。自殺と断定』

小さな記事だった。一日どれ位不慮の事故があるのか知らないが‥それにしても小さな記事だった。自殺したのは28歳の女性。名前も自殺の原因も記載されていない。

『あれっ?長田ちゃん。珍しいじゃん』

職場の同僚の門馬さんが声を掛けてきた。俺と同じ派遣社員。因みにゲーマー。見た目は若いがもう40歳を超えている。

『あっ昨日…人身事故があったんですよ。それで…』

門馬さんは煙草に火を点けながら

『東埼線?あそこは自殺が多いよな。本当によく電車が止まるよなぁ』

門馬さんは東埼線でこの工場に通っている。事故で電車が停まる。かなりの迷惑だろう。遅刻した所で時給は補償されない。

『長田ちゃん。東埼線は何故自殺が多いか知っている?噂じゃ賠償金が安いらしいぜ』

『あっ…聞いた事ありますよ。安いらしいですよね』

俺も聞いた事がある。ただ具体的な金額は知らない。

『全く最後まで人様に迷惑かけて何を考えているやら…』

(あれっ…)

門馬さんの言葉は何処か矛盾している。

俺は黙っていると門馬さんは

『じゃあ。長田ちゃんお疲れ』

と休憩室を出ていった。


奇妙な違和感は更に広がる事になる。

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