無題
第5章 変化(後編)
外はもう
真っ暗なのだろう
と郁也は場違いな事を思った。
雅樹が引き留めてきた時
本当は
帰った方がよかったのだと
わかっていたのに、
雅樹の苦しそうな表情を見たら
このまま帰れない
と思ってしまった。
きっと
こんな事態になる事は
その時にわかっていたのに、
今
郁也は逃げ出したくて
仕方がなかった。
優柔不断で無責任。
そして
答えてあげられないのに
自身のあまりの
偽善ぶりに
雅樹の目を見つめていられなくなった。
「別に…聞かなくてもいいから」
郁也の雰囲気を
察した雅樹は
絞り出したように
小さな声で呟いた。
でも、
郁也から離れようとしない様子は
まだ伝えたい事が
言えていないのだ
としがみついているように感じた。
「…聞くよ」
「…」
「…ごめんな…
聞かせてほしい…
雅樹君を、
知りたいよ」
驚いて
見上げてきた雅樹を
見られなくて
視線を窓に移すと、
外は漆黒に
塗りつぶされていた。
「俺が前に男が初めてじゃないって言ったこと」
いきなり本題に入る雅樹を
見返すと、
中身の無いバラエティーを
見るとも無く
見つめている瞳が
外以上も
暗かった。
「父さんが
出張先の事故に巻き込まれて
死んでしまってから
母さんは少しずつ
変わっていったんだけど、
そこはきっかけってだけ」
「うん」
「父さんが死んでから
3年くらいたった頃、
母さんが
少女のように楽しそうに
出掛ける姿が多くなったんだ」
「うん」
「それから
どのくらいかは
覚えてないんだけど、
母さんが
‘お母さん結婚する事になったから雅君のパパになる人だよ’
って嬉しそうに
知らないおじさんを連れてきた」
「…うん」
「最初
知らない人だし
どうでもよかったんだけど、
母さんが不安そうにしてるの見たら
申し訳なくなって
演技するようになったんだ」
「…うん」
真っ暗なのだろう
と郁也は場違いな事を思った。
雅樹が引き留めてきた時
本当は
帰った方がよかったのだと
わかっていたのに、
雅樹の苦しそうな表情を見たら
このまま帰れない
と思ってしまった。
きっと
こんな事態になる事は
その時にわかっていたのに、
今
郁也は逃げ出したくて
仕方がなかった。
優柔不断で無責任。
そして
答えてあげられないのに
自身のあまりの
偽善ぶりに
雅樹の目を見つめていられなくなった。
「別に…聞かなくてもいいから」
郁也の雰囲気を
察した雅樹は
絞り出したように
小さな声で呟いた。
でも、
郁也から離れようとしない様子は
まだ伝えたい事が
言えていないのだ
としがみついているように感じた。
「…聞くよ」
「…」
「…ごめんな…
聞かせてほしい…
雅樹君を、
知りたいよ」
驚いて
見上げてきた雅樹を
見られなくて
視線を窓に移すと、
外は漆黒に
塗りつぶされていた。
「俺が前に男が初めてじゃないって言ったこと」
いきなり本題に入る雅樹を
見返すと、
中身の無いバラエティーを
見るとも無く
見つめている瞳が
外以上も
暗かった。
「父さんが
出張先の事故に巻き込まれて
死んでしまってから
母さんは少しずつ
変わっていったんだけど、
そこはきっかけってだけ」
「うん」
「父さんが死んでから
3年くらいたった頃、
母さんが
少女のように楽しそうに
出掛ける姿が多くなったんだ」
「うん」
「それから
どのくらいかは
覚えてないんだけど、
母さんが
‘お母さん結婚する事になったから雅君のパパになる人だよ’
って嬉しそうに
知らないおじさんを連れてきた」
「…うん」
「最初
知らない人だし
どうでもよかったんだけど、
母さんが不安そうにしてるの見たら
申し訳なくなって
演技するようになったんだ」
「…うん」