テキストサイズ

庭師-ブラック・ガーデナー-

第2章 1

 「最初に異臭に気づいたのは、小沢さんでしたね」
 指名されたのは、腰の曲がった老人だった。きょとんとした顔でうなずいた。
 「そうそう。私がね、外に出ようとした時に。コンビニエンスへ、行こうとした時に。この臭いがツンときたんですよ。びっくりした」
 「不審な人物とか、物とか、気づいたことはありましたか」
 問われて、小沢さんは心細そうに「さあ」と唸った。
 主導権を握った女性は、一同を見回した。私はまじまじと彼女を観察してしまった。
 美人だった。鼻筋が通って、目が大きくて、まるでこれから外出するかのようにビシッとメイクしている。髪型はちょっと流行遅れな感じの太巻きのウェーブだが、この女性の雰囲気には合っていた。ほっそりした身体にシンプルなブルーグレイのニットワンピースを着て、胸もとには小さなブローチまでつけている。足元はハイヒール。みんな、ジャージとかサンダルばきとかくつろいだ格好なので、彼女一人だけが浮いていた。
 華やかだが、水商売風というのとも違う。ファッション雑誌で、山の手のすてきな奥様と紹介されそうな雰囲気が漂っている。少なくとも、本人はそれを意識しているんだろうなという自信と緊張感がピリピリと伝わってくる。
 彼女は、推理小説の探偵みたいというか、学校の先生みたいというか、きびきびした口調で言った。
 「小沢さんが異臭に気づいたのは、今からおよそ三十分ぐらい前です。小沢さんや大岩さんが話しているところへ、吉村さんが来合わせて、騒ぎになったんですね」
 吉村さんは笑い、「あたしが騒いだわけじゃ……」と言いかけたが、美人はそれをぴしゃっと遮った。
 「沢田さんが帰宅したのが七時ごろ。とすると、七時から八時半ぐらいの間に、誰かが薬をまいたことになります」
エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった

ストーリーメニュー

TOPTOPへ