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赤い花~情欲の檻の中で~

第4章 MemoriesⅢ

 幸せな人ほど、他人の不幸や哀しみ、痛みには鈍感になるものだというけれど、どうやら、それは本当のことらしい。向こうは同じ歳のよしみで親しげに話しかけてくるのだろうが、こちらは正直、名前さえ憶えていないほど、彼女の印象は薄かった。
「これから帰りなの、一ノ瀬さん」
 彼女は以前、記憶にあるよりも少しふっくらとした顔をほころばせた。
「私、車で来ているのよ。良かったら、お家まで送っていくわ」

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