壊れた御守り
第9章 約束
「お医者さんに…なるの?」
麻美の声だけが聞こえる。
風の音も、チャイムの音も
全てが膜を張ったように聞こえなくなる。
俺はそっと麻美を離した。
「あぁ。だから約束しろ」
「え…?」
「俺が医者になるまで、待っててくれ」
「慶ちゃん…だけど……」
うん。
言いたいことはわかってる。
麻美は余命宣告をされてるんだ。
今、学校に通えてることが不思議なくらいだ。
麻美は“待てない”って、そう言いたいんだろ?
「なぁ、麻美」
「慶ちゃん…」
「今日、花火大会があるんだって、健太から聞いた」
「え?」
言葉が見つからなくて、俺は話をそらした。
「花火、見に行こう」
できるだけ、精いっぱい笑った。
麻美が不安がらないように。
麻美は戸惑いを隠せずに俺を見つめた。
「慶ちゃん…」
そして、しばらくして麻美は弱々しく笑った。
「行きたい」
俺は麻美の手をとって、また微笑み返した。