職業、遊び人ですが?
第1章 女勇者と遊び人
「イザルタさん、新しい旅の始まりですよ」
もう何度目になるだろうか。酒場マニュアルに則って、店員はドアをノックした。低レベルであるが、僧侶スキルAを持つイザルタは在籍リストに載せた途端、希望者が殺到した。ラルーであれば、性格などを吟味して選ぶのだろうが、最近は滅多に顔を出さず、店員が酒場を取り仕切っていた。
いずれは独立したいと思っていた店員には願ってもないことである。だが、そうなった理由は喜ぶべきものではない。
あの高レベルの遊び人・ゼックスの部屋に入り浸ってラルーが仕事をしなくなってしまった。店員も酒場主人の才覚はある程度のものをもっており、淡々と仕事をこなしていた。だがある日、ある日店員では判断が難しい案件が入る。
悩んだ挙げ句、ラルーに助言を求めた。向かった先はゼックスの部屋。
ノックをしても返事はない。玄関で大声を出しても返事はない。ただ、店員の耳に入るのはラルーの喘いだ声。恐らく、いや、間違いなく男女が事を行っている。
(長いよ、もう……)
30分ほど待ってみたが、事が終わる気配すらなく、激しさが増している。
店員も人間。三大欲に負けてしまうことを恥ずかしいことだとはとは思っていない。そんな弱い部分があってもラルーはラルー。酒場の仕事を目の前にすれば、優先事項は変わるはず、と部屋のドアを開けた。
店員の強い想いは半分正解、判断外れた。
「こ、このっ……パーティーならあ……あん! リパさん…んんっ! ……で……いいわ……よっ」
ゼックスに突かれながら、答えるラルーの姿がそこにあった。
さて、店員はイザルタの部屋の前。ノックをするが、返事はない。毎日8回のお祈りを欠かさない真面目な女の子であり、遊びに出掛けたとは思えない。
(こんな大事な時期に病気か!)
もちろん、店員の考えは杞憂で終わる。イザルタの部屋の玄関には見慣れた革靴があった。
遊び人・ゼックスのものである。