貧乳ヒメと書かない作家
第30章 初版本にみる家族の絆
「あたしにとってこの小説は、特別なの」
千春はその本を受け取ると埃っぽい背表紙を撫でた。
どこか憂いの篭った表情だった。
「あたしさ、両親がしょっちゅうケンカしてて、家にいるのに、ずっとピリピリしてて。
原因は父親にあったんだけど、父親が仕事から帰ってきたら二階に逃げて、顔合わせないようにしたりとかしてたの。
そんな仲だったから家族皆で出掛けるなんてないでしょ?
あたしそれがすごく寂しかった。
だけど…だけどね」
千春は小説を開いた。
「この小説には、色んな困難が降りかかっても、家族でなんとか乗り切って行く家族のことが書いてあって、なんだかあたし、この家族の一員になったつもりでよんでた」
気がつくと開いたページに雫が落ちたあとがあった。
「千春…」
「ぁ、やだ。
本が痛んじゃう…」
桐生は千春にちかよるとぎゅっと抱き寄せた。
「傷付いてるのは本じゃないんだろ」