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ここは目黒区にある、出版会社、洸文社の編集部である。

普段は賑やかで話し声が飛びかっているのだが、今日に限っては、まるで電話ですら鳴るのを遠慮してるかのように静まりかえっていた。


「桐生先生の原稿、まだみたい…締め切りまであと1週間もないのに」

山積みになった資料に隠れて、隣の席の編集者歴１０年の平井美砂が風戸千春に囁いた。

「いい？今の編集長と目を合わせちゃだめよ。 目を合わせたら…」

「えっ？」

千春は平井の声が聞き取れず社内案内状から、顔を上げた。

千春の席は川崎編集長の席からやや離れたところにあったが、血走ったその目はすぐに千春の瞳を捉えた。

「おーい！風戸！お前まだ担当決まってなかったな～。行ってこい！」


「あ、あたしですかっ！でもっ」

千春は焦ってしまった。
なにしろ、千春は今日が初出勤であったから。

指導役の平井がやれやれとため息をついた。

「ああなった編集長は何言ってもだめよ。桐生先生はここよ。とりあえずいってみなさい。」

「そんなぁ…」千春は肩を落とす。

平井から渡されたメモをあてに、千春は渋々会社をあとにした。


風戸千春。22歳。
二重で童顔の彼女は美人と言うより可愛らしいという印象を受ける。
ショートヘヤーをふんわりとさせ、
小柄でやせっぽちでぺたんこな胸のせいか未成年によく間違われることもしばしばだ。