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妄想しながら素直になろうよ

第9章 映画で妄想

待ちに待った課長との映画デート。

昨日の夜は中々寝付けなかったほどだ。
遠足の前の日の小学生かっての。





待ち合わせ場所。

30分も早くついてしまったのに、あんたはどうしてそこにいるんだ。

待ってる間のドキドキを楽しもうとしてたのに。

いきなり心臓がフル回転だ。


恋人同士のように、一成と声をかけて肩を抱き寄せたい。耳元で「会いたかった」なんて甘く囁いて、こめかみにキスしたい。


そんな妄想を携えて、足を踏み出した。



「課長、早いですね。早く着きすぎたって思ってたのに」

「お前を待たせるとうるさそうだからな」

そう言って、俺の腕を撫でるように叩くんだ。
そんな些細な接触ですら、震えるほどに嬉しいなんて。







映画館は、俺の想像を超える混雑ぶりで。


ようやく取れた席は一番後ろの一番端。
俺にとっては、誰の視線を気にする事なくイチャイチャできる最高のポジションだった。
スクリーンは遠くて見づらいようだけど。



「早く来たつもりだったのに、こんなに混んでるなんてすごいな」

座席について、ほっと一息付きながら内海が呟いた。

「ですね。でも、この回に座席とれて良かったですよ」


抱えていたポップコーンを一つ課長に渡した。



「お前のそういうポジティブなとこ、好きだよ」


内海が俺を見て笑った。




好きだよ

好きだよ


頭の中でその言葉にエコーがかかって繰り返される。

なにこれ。なんのサプライズ?
そんなこと言ってくれるなんて、嬉しすぎてちびりそうなんですけど。


映画が始まっても。
俺は暫く内海をじっと見つめていた。


「俺も、好きです」

映画の大音量にかき消されるように、小さな声で想いを口にしてみた。

「ん?なんか言ったか?」

「いえ、何も」

にっこり笑ってスクリーンに向き直る。



ほんと、俺ってチキンだな。





ストーリーを下調べして来たおかげですんなり理解出来た。
実はファンタジーって、苦手なんだ。
世界観を理解するまでに相当時間がかかり、ようやくわかった時には大体話は終わってる。



スクリーンでは姫が森の精に捕らえられ、蔦に絡め取られていた。


これは・・ヤバイ。



チラリと横を見て、内海を盗み見る。





妄想スイッチが。

パチンと押されてしまった。

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