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~多重人格パートタイムラヴァー・ガール~

第2章 美香の話②


アタシが育ったのは山陰地方の山に囲まれた村だった。

冬には一面深い雪に包まれて、春には桜が狂い咲いた。

アタシは雪に閉ざされた中でひっそり静かに暮らす冬の方が安定して落ち着いた気分になれた。
毎年、毎年、まるで世界がイカレたように桜で村が覆われると、とても憂鬱な気分になった。

父はそこそこ名の知れたハードボイルド作家だった。中学2年の時にはじめて父の作品を読んだことがる。
暴力、セックス、ドラッグ、アウトローな世界。アタシには意味の分からない言葉が並んでいた。
読みながらアタシは強烈な吐き気に襲われた。それ以来アタシは父の作品を二度と読むことはなかった。

父は執筆活動に入ると何日も書斎にこもった。またある時は外出して数か月家に戻らないこともあった。
仕事がひと段落いくと急に父親面をしてアタシをかまった。

父はとても神経質でとにかくは自分のことしか考えない人だった。

母は平凡なサラリーマンの娘として育ち、みごとに平凡の遺伝子を受け継いだ人だった。
娘より何よりも、父を優先する母は、父の奴隷だった。自分の意見を何も持たずただただ父の言いなりになってばかりいた。

アタシに異常が現れた頃から母は泣いてばかりる。


中学に上がった頃。
アタシの記憶がとび始めた。

自分が今まで何をしていたのか、なぜここにいるのか思い出せないということが起き始めた。


そして中2の春のある日。
「今年も桜が綺麗ね」
と言った母をアタシは別人のような低くしゃがれた声で酷くののしった。


母は驚き、ちょうど家にいた父を呼んだ。
父は、放心状態でうつむき低い声でブツブツつぶやき続ける娘の頬を打った。

「うぇーん。痛い。痛いよぉー」

その泣き方はまるで幼児のようだった。



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