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びりっかすの神さま

第1章 透き通った小さな男

九月になって一週間。まだ暑いのに背広にネクタイ。そしてきっちりと分けた頭。それに黒縁のメガネが、そんな感じだった。

お母さんは、正面玄関のところで、もう一度頭を下げて、日ざしの中へ出て行った。
蝉の鳴き声が聞こえる。

カバンを持った始の肩を、市田先生がぽんとただいた。

「いこうか。四年一組の教室は二階だ。最初は、なれないだろうが、ま、頑張れ。」

先生について歩きながら始は、さっきお母さんも、じゃ、と言った後、頑張れと言いかけて、よしたんじゃないかな、と思った。
おお母さんには、頑張れと言いたくない理由がある。
 七月の中頃、突然お父さんが入院した。入院したと思ったら、呆気なく死んでしまった。お葬式があり、お母さんの勤め先が決まり、始とお母さんは二人でこの町に越してきた。
 そのお父さんが死ぬ前に始に言った言葉が、頑張れ、だった。

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