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リトル・リトル・バンビーナ

第2章 僕はアナタに欲情してる。

ひと時でいいから俺のことを想ってくれたら、なんて思っていたけど

行為が終わった後に目を向けざるを得ないのはやっぱり現実で。

床に落ちた白衣を手繰り寄せ、なんとか着込んだ彼女は、嗚咽交じりに泣いていた。

そりゃ、そうだよな。

婚約もして、結婚も決まってるのに。

自分の生徒にレイプされたんだもんな。

「私……っ、羽生くんに、こんなことされるなんて……っ」

「美和子ちゃん……」

俺、最低だなって思いはあった。

泣きじゃくる彼女をみて良心も痛む。

けれど、わずかな時間であっても、美和子ちゃんは確実に俺を求めていたって事実に

どうしようもない喜びを感じていた。

なんて、口に出したら
俺は今度こそ彼女に罵倒されて、ボロボロに
打ちのめされるだろうか。

「自分が恥ずかしい」

涙に混じり、吐き出された声は俺を罵倒する言葉、ではなかった。

むしろ、美和子ちゃんが自分を自分で詰っているような、自責の言葉だった。

「……気持ちいいって思っちゃったの。羽生くんと一つになりたいって。
けど、こんなの、ゆーくんへの裏切りだ……っ」


言わなくていいことを口にしてるあたり、美和子ちゃんは素直というか、男慣れしてないコなんだよな。

きっとそのゆーくん(婚約者だろう)以外に抱かれたことなんてなかったんだろうし、ゆーくんにも大切にされてきたんだろう。

「指輪、ゆーくんに返さなきゃ」

「美和子ちゃん!?」

さすがの俺も声を大きくするし、慌てる。

まさか、俺のせいで婚約破棄になるなんて。

「……羽生くんが好きかなんて、そんなのわかんないよ。こんなことがあったんだもん。
けど……こんなことがあった以上、ゆーくんのお嫁さんになる資格、私、ないの」

「待って、美和子ちゃん。俺が……その、美和子ちゃん襲っちゃったことは、婚約者には言わなきゃわかんないことだろ」

すると、まだ涙声のままで美和子ちゃんは笑った。

「ううん。私が許せないだけなの。だからこれは、羽生くんが悪いとかじゃない。
融通利かない私が馬鹿なだけ」

そう、彼女は寂しそうに微笑み、俺が抜き取った指輪をベッドの中から探し当てる。

愛しむようにその指輪を指で撫でて、ポケットにしまった。


そう。

指にはめなおすことはなかった。

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