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僕は絵しか描けない

第10章 ファーストキス

「そうだね……獲るんだよね」

「そう。わかればよろしい」

詩子さんは猫のような目をふにゃっと歪めて笑った。

その笑顔は詩子さん特有のもので、僕も嫌いではない。

飲み終えた缶ジュースをゴミ箱に捨て、僕は再び原稿に向かう前にカーテンを閉めた。

なぁんだ。こうすれば妹尾さんのロッジが見えなくなるじゃないか。

黙って原稿に向かい、詩子さんの読みづらいネームを作画していく。

それまでの不振が嘘のように、滑らかにペン先が滑った。

面白いように指が動き、その感触を逃さないうちに僕は一心不乱に描いた。

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