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僕は絵しか描けない

第12章 未完成のまま、僕は

僕も慌ててコートを着て駅へと向かった。

もし詩子さんより遅れることがあったら何て罵られるかわかったもんじゃない。


いや、そんなことより、本当は僕も一秒でも早く詩子さんに会いたかったんだ。


十時を大きく過ぎた駅前には人通りも少ない。

まだ詩子さんは着いていなかった。

書き上げたばかりの原稿を鞄に入れたまま僕はベンチに座り、詩子さんの到着を待っていた。

冬の夜はやはり冷え込み、もう少し厚着をしてくるべきだったと後悔し始めたのは着いてから十分後だった。

少し遅いなと缶コーヒーを啜っていたのは二十分後だった。

何かあったのでは、とおろおろし始めたのは三十分後だった。

運転中とは思いながら僕は詩子さんに電話をかけた。
当然ながら詩子さんが出ることはなかった。

不安になり、僕は駅周辺をうろうろしながら詩子さんを探していた。

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