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僕は絵しか描けない

第12章 未完成のまま、僕は

華子ちゃんはなにも言わず、詩子さんの部屋までやって来た。

「な、なに……」

まだ詩子さんの生活の残り香が漂う、その部屋の中に入るのが躊躇われた。

「ほら。入ってきて」

「いや、でも……」

「あーっ……お姉ちゃんが言ってた通り、面倒臭い奴だな……」

華子ちゃんは苦笑いしたかと思うと、突然涙を流した。

「は、華子ちゃん?」

一度流れ始めた涙は堰を切ったかのように溢れだした。

「お、ねえちゃぁんっ!! うぅっ……お姉ちゃんっ!!」

泣き崩れる華子ちゃんを僕は恐々と抱き締めて頭を撫でてやった。

とにかく落ち着くまでそうしてやった。

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