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僕は絵しか描けない

第7章 僕の失恋

「なんか、照れるね……」

凝視される妹尾さんは照れ臭そうに笑う。

「そうだね。でもいい顔してる、妹尾さん」

スケッチをしているときの僕は普段よりずいぶんと強きで、こんな歯の浮く台詞もさらりと言えた。

筆が滑り始めると意識が全てスケッチに向かうために、言葉にまで気が回らないからかもしれない。

シュッシュッと音をたてながらスケッチを進める。

妹尾さんも照れがなくなってきたのか、静かに僕にスケッチされていた。

次第に瞳が潤んできているのに気付いた。

まさかスケッチされているうちに興奮してきたのでは、と妄想を逞しくしてしまうが、そうではないことを知る。

妹尾さんは潤んだ瞳から、そのまま大粒の涙を溢したからだ。

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