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近くて遠い

第29章 虚構の愛、真実の愛

「……その社長は桜子が大変気に入った。
店に押し掛けた桜子の借金取りに、その借金である三千万を肩代わりしてやるほどに…」



光瑠さんの足元でうずくまる、原田と加山の顔が浮かんだ。


でも彼は純粋に助けてくれた訳じゃなかった……




「そのあと、どういうわけか桜子は夜の街から姿を消すんです。
どこに行ったと思いますか?」


問い掛けてきた要さんに私は唇を震わせた。



「……分かりませんか?
ここからは僕の勘なんですけどね、
きっと桜子はその社長に話を持ち掛けられたんです。『三千万払うから、うちにこい』とかなんとか言われて。」


………………!!


「要さんっ…お願いですっ…もう…もうやめてっ…」



そんな私の震える手を要さんが強く掴んだ。


あの日、


財布を取ろうとした私の手を掴んだように──


「僕は有川商事の元社長秘書ですよ。その気になれば何だって調べられる。
店のオーナーがあなたのことを心配していましたよ。」


「あぁっ……」


幸ママの優しい顔が


浮かんで、すぐに消えた。





言わずにおこうと

決めたのに…



「他には?
なんて言われたんですか?」


バレている……


私があの日の少女だということが…


「……お母様の事を言われましたかっ…?
ねぇ、真希さんっ…!!

それともっ…

あなたは望んでここに来たのですかっ…?」


──────これは契約だ

──────お前に選択の余地はない






私は

望んでここに来たのではない──




「っ………」


澄んだ瞳が私を捉える。


震えたまま私は言葉を発する事が出来ない。



「あなたは僕の事を覚えているはずだっ…!

なのにどうして名乗って下さらないのですかっ?!」

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