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近くて遠い

第30章 3つの想い

「っ!!」


要の言葉に息を飲んだ。



「社長…
あなたは卑怯だ…
真希さんの優しい心に漬け込んで…
真希さんは物じゃないっ!!」



見えていないはずの要の誠実な瞳が光瑠の心を突き刺す。



──────三千万で…身体は買えても…心は買えない……


無理に抱こうとした時に真希が放った言葉が光瑠の頭を巡る。



反論出来ずにただ怒りだけが募る。



「ふざけるな…!」



光瑠は要に凄んで拳を力いっぱい振りかざした。


「やめてっ!」


脇で濡れた瞳で光瑠を見つめながら、真希が叫んだ。


やめてほしいなら、

自分の腕にくればいいものを──



それをせずに
依然として要の腕にいる真希。

そして自分に正論を突き付ける要がどうしても光瑠は許せずに、
要に目掛けて力いっぱい拳を降り下ろした。




「あっ…!」



「真希さんっ!」



「っ!?」



鈍い音がして、

小さな身体が床に倒れ込んだ。



要に向けられた怒りの拳は、奇しくも要を庇った真希の頬にあたった。



光瑠は

まだ冷めぬ拳の熱を感じながら、

うずくまる真希の姿を、

呆然と眺めていた。


「真希さんっ、真希さんっ!」


要はそう叫んで真希の姿を探す。



「真希っ……」


うずくまったまま動かない真希に光瑠は駆け寄ってその身体に手を伸ばした。



「触らないでっ!!」


強く発された言葉に光瑠の手が寸でのところで止まった。

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