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近くて遠い

第34章 Sweet Night

────────…

大人の雰囲気が漂う高級ブティックの中で、要は椅子に足を組んで真希を待っていた。



思わぬ展開で二人きりの夜になった。


隼人を心配に思いながらも、内心ウキウキしていた。



それに…



いつもと違ってメイクをしていた真希の顔を浮かべて思わず要の顔が綻ぶ。


メイクをせずとも整った可愛らしい顔だが、自分のために、綺麗になろうとしてくれた真希のその行動が要を喜ばせていた。


店員が色気に溢れた要をじっと眺めて溜め息を洩らす。


キリッと締まった男らしい顔立ち

サラリとなびく黒髪

高身長にスタイルがいいため、スーツ姿がよくはえる。


店内のゆったりとしたその雰囲気がさらに要とマッチしてまるで映画に出てくる二枚目俳優かのようだった。



要は座りながら店内を見渡した。



見えるようになってから、また再び世界が変わった。


当たり前だと思っていたもの全てが美しく感じる。


自分は運が良かった──



衝動的に手術を決めたことを思い返すと思わず冷や汗が流れる。


すると、ポケットの中のケータイが震えて要は画面を見た。



「酒田…?」



出ようかどうか、少々迷ったあと、要は画面をタッチして電話に出た。




「関根さんっ!?」



耳に当てた瞬間大きな声で叫ばれて要は電話を遠ざけた。



「っ…なんだ、突然……」



「あぁ、良かった出てくれた!」



安堵の言葉を洩らす酒田の声を要は久しぶりに感じたまま黙っていた。




「今、どこで何してらっしゃるんですかっ…?」



「……どこで何って…」



要はチラと真希のいるフィッティングルームの扉を見た。



「……真希さんと一緒ですか…」



「っ…」



控えめに尋ねた酒田の言葉に要は閉口して視線を地面に落とした。



「やっぱり……関根さん…どういうつもりなんですかっ…!?」



「……どういうつもりも何もない。」


「そんなっ…真希さんは社長の──」


「うるさい、事情もよく知らないで。」


言葉を遮られ、酒田は声をつまらせたあと事情?と聞き返した。



「……もう話すことはない。俺は手術が成功して視力を回復させた。真希さんは俺が守る。」



二度とあんな風に頬を腫らせたりしない──

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