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近くて遠い

第34章 Sweet Night

「えっ、見えるようになったんですかっ!?なら会社に──」


酒田が再び声を上げた。


「悪いが、俺はもう有川社長の元では働けないし、働く気もない。」


きっぱりと言い切った要の言葉に今度は酒田が閉口した。


要は横暴ながらも仕事に打ち込む光瑠を尊敬していたし、一生ついていく気でいた。


だが、やはり真希を無理に自分のものにしたという事実が許せなかった。


光瑠に愛があるならまだしも、要が声を荒げ真希が抵抗すれば、光瑠はまるで人形を捨てるように真希を手放した。


その人を無下にする態度は許せるものではない。


そして真希が自分が恋した相手だったから余計に──



「じゃあ…」



あっ、と言ってまだ何か言いたげな酒田の声を無視して要は電話を切った。



ふぅと息を吐いて床を見つめた。


自分のしたことは間違っていない──


その自信はある。



だけど、やはり会社自体は心配だ…


それに…


この前のお祭りで隼人が「ひかる」と名前を出した時に真希が見せた無理な笑顔が要の心に引っ掛かっていた。



「すみませんっ…お待たせしちゃって…」



聞こえた柔らかな声音に要はハッとして顔をあげ言葉を失った。



シャラ…と音をたてて控えめに輝くビーズをあしらったかんざしが美しい黒髪をまとめあげる。



漆黒のタイトなドレスは片方の肩から流れるようなラインを作ってシースルーのストールと共に床に伸びる。


開きすぎないスリットから、覗く白い足がまだあどけない真希を一気に大人にさせていた。



「やっ…やっぱり変ですよねっ…」



あまりの美しさに固まっていた要を見て、真希はまた落ち込んだように俯いた。



「…いや、そうじゃなくて…」


言葉を詰まらせる要を不安そうに真希が見上げた。


真希の潤んだ瞳の揺れに要はクラッと倒れそうなほどだった。



まとめあげられた髪から覗くうなじに、露になった鎖骨──


何より、ドレスの黒が真希の白い肌を際立たせている。



「要さん…?」


首を傾げる真希を見つめながら、恋に落ちずにはいられない──と心で呟いた。



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