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近くて遠い

第38章 大事なもの

「なっ、なんだって!?」


声を上げ、電話切った酒田に光瑠がなんだ!と聞いた。



「調べたら、




マイスターの……っ


渡辺代表のユザーデータに繋がったそうですっ…」



「マイスター!?」



顔面蒼白になる酒田と光瑠に要が叫ぶ。



要は怒って光瑠の身体を壁に打ち付けた。



「社長っ!!あなた何をしたんですかっ!」



睨む要を見ながら、光瑠は唇を噛んで

自分が渡辺に対してした仕打ちを思い出していた。



恨まれても仕方がない──

怒りまかせに怒鳴り
全ての権限を剥奪したあげく足蹴にした──



「契約内容を無視して…



全面吸収にしましたっ…」

黙る光瑠の代わりに
酒田が答えた。





「何だってっ…!?
日本酒部門の権限もっ、何もかもかっ!」



要の言葉に
酒田は顔を歪ませ、頷くようにギュッと目を瞑った。



「っ…!!
社長っ!!あなたはその意味が分かっていますかっ!!」


光瑠は要に凄まれ唇を噛みながら、ただただ黙って見つめ返すことしか出来なかった。


その様子を見た
要は乱暴に光瑠の胸ぐらを放し、再び酒田を見た。



「要求はっ…
要求はなんだっ!
その吸収の件か!!!!」




「そ、それが何も要求がなくっ…!

ただただ

『大事なものを失う気持ちを知れ』

と言葉が添えられただけで…!」



要の問いに答えた酒田の言葉を聞いて、光瑠が再び顔を青くして目を見開いた。



「それはまずいぞっ…!」

要の言葉に皆が顔を見合わせる。



「…っ……場所もわかりましたっ!!

郊外のっ…廃墟の倉庫です!」



それを聞いた、光瑠がかかっていた白いジャケットを掴んだ。


「斎藤が下にっ…!!

僕の車ならすぐに出せる!」



要の言葉をきいて、光瑠が部屋を駆け出した
後を追うようにして要と酒田が続く。

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