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不器用なタッシュ

第10章 鎖

車を走らせながらバックミラーで香織を確認する。


小さくなっていく香織は、どことなく力無く見えた。


でも…この後も小田切の所に行くんだろ…。


その跡が消えない限り、下手な事も出来ないだろう。


それとも…言い訳付けて、小田切に抱かれるか…


バンッ!!


衝動的にクラクションを叩くと、パァーーー!!と、響いた大きな音に、歩行者が何人か振り向いた。


「はぁ…はぁ…うぜぇ…」


香織と別れた途端、胸の奥から不安だけが洪水の様に溢れ出して…


息苦しくて…


死にそうだ…。


俺は咄嗟にハザードランプを付けて、路肩に車を停めた。


「はぁ…クッソ…」


ハンドルに腕を載せ、唇を当てて軽く歯を立てる。


「痛っ…」


肌に鈍い痛みが走るが、胸の痛みよりマシに感じた。


フロントガラスから空を見上げると…
藍色のグラデーションが掛かる空に、白い月が浮んでいた。


「月…か…」


カチカチカチ…


ハザードの音が、まるでメトロノームの様に時を刻む。


そっと目を瞑ると…

香織と初めてキスした日を思い出す…


『嘉之さん!月が綺麗ですよ!ほら、満月です!』


『どこからでも同じモノが見えるって、素敵ですよね?』



君の瞳に映る月は…


今日の月も…


あの日と同じに…


見えるのかな…?


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