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不器用なタッシュ

第10章 鎖

それから一週間…


俺は感情をぶつける様に筆を毎日走らせていた。


何か描きたいテーマがある訳でもなく…

胸の奥から次々に湧き上がる怒りや悲しみを
ただ無造作に絵の具に変えて叩きつけた。


真っ白なカンバスに、みるみるとシミが広がって…
無意味で滑稽な形になっていく。


まるで反吐を吐きつける様に…


何枚も何枚も…
描いたけど…


本当に俺の色に染め上げたかったカンバスは…


今、俺の手元に無い…。


ザクッ!ザザザッ!


俺はペインティングナイフでカンバスを刺して、一気に切り裂いていった。


「くっそ…」


ザクッ!ザクッ!ザクッ!


さっきまで塗っていた物全てを切り裂く。


部屋には無残な姿になった、カンバスが山積みになっていった。


「はぁ…はぁ…」


カラン…


ペインティングナイフを床に放り投げて、絵の具で汚れた手で携帯を握る。


香織に一言メールする…


『土日で会えない?』


しばらくして香織から…


『土曜日の午前中からならいいです。』


メールをみた瞬間、どうにも笑いたい衝動に駆られた。


「ふっ…あは…あははははっ!」


今度は気が済むまで、笑い続けた。


明日の土曜日…
俺にとっての次の決戦になる。


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