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不器用なタッシュ

第10章 鎖

駐車場を見つけて香織が来るのを少し待つと、不機嫌そうな俺の様子に顔が怯えている。 


香織は直ぐに顔に出るけど、そんな表情になってるのは面白くなくて余計俺を苛立たせた。


「乗って!」


「でも…」


「いつまでもここに駐車しておけないんだけど」


躊躇している香織に有無を言わさせるつもりはないけど、一応穏便に問いかけた。


「…どこ行きたいの?とりあえず、動こうぜ」


「あっ…うん」


ちょっと驚いた目をして、香織はおずおずと助手席に乗った。


「どこにする?」


行きたい所に適当に流したら、家に連れて行くつもりだったが…


「嘉之ん家…で、いいよ…」


どういう心境の変化だ?


「あぁ?嫌だったんじゃないの?」


「嫌って訳じゃ…」


言葉を濁しながらモゾモゾさせている指が目に付いて…


「ふ~ん…指輪してねぇの?」


ピクッと、香織の指先が震える。


「キズ…付いちゃうから」


「ははっ!そりゃ仕方ねぇだろ。いいから着けておけよ」


香織の意図は取り敢えずとして、小田切への当て付けなんだから、付けてなきゃ意味ないだろ!


「うん…」


香織は気が重そうに箱を取り出し、指輪を右手の指にはめようとしたから…


「左な!」


透かさず突っ込むと、渋々と左手に付ける。


「じゃぁ…出すから…」


車を走らせながら目の端に見える指輪がキラキラ光ると…


何とも言えない感覚が胸を満たしていった。


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