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不器用なタッシュ

第10章 鎖

マンションに着いて、香織の顔は更に強張って寡黙になった。


部屋に入って香織をソファーに促し、冷蔵庫から飲み物を取り出す。


「冷たいもんだったら直ぐ出せるけど?」


「うん…大丈夫」


グラスに氷を放り込んで、お茶を注ぐ。


「はい…お茶だけど」


「あ、ありがとう!」


香織はグラスを両手で持って、お茶を一口飲み込むと緊張した面持ちで固まっていた。


大抵こういう時は、考え事だな…
先手を打っておこう…。


「似合うじゃん」


「え?何が?」


いきなり言われてキョトンとする香織に俺は小さく笑って、香織の左手の薬指を撫でながら


「指輪だよ…香織がこうゆうの着けてるの見たことなかったな」


香織は余りアクセサリー類を付けてなかった。


「そっだっけ…」


俺の言葉に戸惑いがちに答える…。
これでも結構、見てたんだぜ。


「買ってやることもなかったしな…どこかに連れてってやれることもだな…ははっ!これからは、アチコチ行ってみような」


そうだ!
イタリアは最新のモードを発信するんだから、香織にもお洒落させてやろう!


ローマやミラノを二人で歩く光景が脳裏に浮かんで、自然と口元が綻んできた。

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