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不器用なタッシュ

第10章 鎖

頭の中で走馬灯の様に、香織と出会った時からの事が一気に駆け巡る。


俺は片足を床に着けたまま、視線を空に彷徨わせた。


動かなくなった俺の下から、香織は息を切りながら抜け出し


「ずっと…どう思われてるか分からなくて…身体は繋がってたから心もいつかは繋がっていけると信じてた…でも…」


『でも…』


頼む…その先こそ…
俺を予想を裏切ってくれよ…。


「な…に?」


香織の目から涙が一気に溢れ出した。


「…私は…嘉之の家族にしてもらえないと思った…」


へ…『家族』?
何言ってんだ…これからだろ…
本当に俺たちが家族になるのは…。


「違う…だろ…何でそうなるんだよ」


香織を抱き締めたい…
瞳を見詰めて、俺だけを映させたい…


だけど…
何故か指が動かないんだ…。


香織は…更に『呪い』を吐く。


「だから…イタリアも行かない…一緒に住めない…」


ヤメロ…


「黙れ…」


ヤメロ…ヤメロ…


「もう…会えない…」


ヤメテクレッ!


「黙れよっ!!何勝手言ってんだよ!これから…っ」


身体中が恐怖と絶望感で、飲み込まれそうになる。


カツン…


香織は左手から指輪を外し、テーブルに置いて


「…ありがとう…サヨナラ…」


俺に止めを刺した。


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