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不器用なタッシュ

第13章 奪回

しばしの沈黙――――。


それはまるで俺の言葉を肯定しているようで、ドンドン俺の理性を狂わせていく。


「あっ…違っ…」


躊躇しながら吐かれた否定の言葉は、真っ暗闇へ吸い込まれて――――

消える。


真っ黒だ……

何にも濁されない、黒……


だから俺は迷わない。


「小田切なら、選り取り見 取りで女には困らないだろ。香織は…俺だけ見てればいいんだよ」


そう……真っ黒な世界では、白は要らないんだ。


だから俺たちの世界に小田切は必要ない。


俺の言葉に香織は呆然として、空を見つめている。


どうやら少し正気に戻ってきているみたいだ。


俺は香織の左手の薬指に指輪をはめた。


これを見れば、自分が何処へ帰るべきか気付く筈だ。


だけど香織は指輪を見て、不安そうな顔になった。


ドックン――――

真っ黒な水面に、黒いインクが落ち続けていく。


「あ…指輪…」


「俺のこと…嫌いなの?」


香織の顔を覗きこみながら、俺は反射的に泣きそうな表情を作っていた。

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